【声明】神戸製鉄所火力発電所(仮称)設置計画環境影響評価準備書にかかる神戸市長意見を受けて

2018年3月2日

【声  明】

神戸製鉄所火力発電所(仮称)設置計画環境影響評価準備書にかかる

神戸市長意見は、環境保全にかかる市長の責任を放棄するもの

知事に、地球環境、地域環境保全のための役割を果たすことを期待する

 

神戸の石炭火力発電を考える会

 

 神戸市は、神戸製鉄所火力発電所(仮称)設置計画(以下「本計画」という)環境影響評価準備書(以下「準備書」という)に関して兵庫県からの意見照会に対し、神戸市環境影響審査会(以下「審査会」という)答申の内容を踏まえ作成した市長意見書(以下「意見書」という)を、2018年3月1日に神戸市環境影響評価等に関する条例(以下「条例」という)の規定に基づき公告、縦覧に供しました。しかし、この意見書は、地域の環境保全、市民への健康影響の低減という市長に課せられた責務に背を向けた無責任なものといわざるをえません。

 

1. 環境保全上の問題点の不十分な指摘

 当会では、昨年7月末の第1次要請書以来、これまで数次にわたって、本計画にかかる様々な環境保全上の問題点や、神戸製鋼による環境影響評価の不適切性・不十分性について指摘してきました。神戸市主催の公聴会(昨年8月20日)においても、39人の公述人が本計画及び準備書が抱える問題点を指摘し、公述人全員が環境保全の見地から本計画に反対の意思を表明したところです。審査会における審議の過程でも、本計画にかかる環境保全上の問題点の指摘が相次ぎました。それにもかかわらず、意見書は、本計画ないし準備書が抱える重大な環境保全上の問題のうちのいくつかを、全くあるいは極めて不十分にしか取り上げていません。不十分な点は多岐にわたりますが、たとえば、以下のような事項は、当会の要請書のみならず、公述意見、市民意見、審査会における審議において指摘されていた極めて重要な問題であり、意見書に十分に反映されていないことは著しく不当です。

 

(1) 大気環境

 発電所の建設予定地は、PM2.5や光化学オキシダントの環境基準を達成していません。また、NO2の環境基準も0.04ppm~0.06ppmのゾーン内(現状からの非悪化が求められている地域)にあり、大気汚染公害の認定患者の方々も居住しています。このような地域に新たな大規模汚染源を追加することは、認められません。

 この地域は、かつての深刻な大気汚染公害からの環境改善の途上にあります。NOx・PM法や県のPM規制の対象地域に大規模な大気汚染源を新設することは、自動車排ガス対策等により長年の努力で積み上げてきた公害対策の成果を、否定するものです。

 この計画は、住宅地から至近の、しかも、現状非悪化が求められている「最悪の立地」で行うものです。また、大気汚染・温暖化対策(次項)の観点から「最悪の発電方法」をとるものです。このような計画に対し、地域環境の管理者である市長が、“ここには石炭を燃料とする発電所の立地は認められない”と述べない理由はどこにあるのでしょうか。

 

(2) 温室効果ガス

・国の政策目標との関係について

市長意見には、日本の温暖化対策にかかる2030年目標に言及しますが、武豊火力のリプレース計画の準備書に対する環境大臣意見(昨年8月)などとは異なり、このまま石炭火力の新増設が進めば当該目標は達成できない、という危機感が皆無です。

また、本計画は、2021年から少なくとも30年稼働させる計画であるのに、国の2050年目標(温室効果ガス80%削減)と本計画の整合性について言及すらしていません。

 

・本計画の本質―「逆リプレース」+「再エネ拡大による成果の横取り」

神戸製鋼が審査会に提出した右図からわかることは、神戸製鋼の本計画により、あろうことか、関西電力が保有する石油・LNG火力から「石炭へのリプレース」が行われようとしている、ということです(下図参照)。

世界が協調して脱炭素に向かおうとしている中、そのような温暖化対策に逆行するリプレースは容認できません。本計画(石炭へのリプレース)によって増加するCO2排出は、消費者負担による再生可能エネルギーの普及によって相殺されるとの強弁は、意味不明であるばかりか、当該企業の企業倫理が疑われるような言明といわざるをえません。

 

2. 環境影響評価手続上の問題点

 昨年10月に神戸製鋼のデータ改ざん問題が発覚し、兵庫県及び神戸市は、アセスデータの検証作業に追われました。当会は、この検証作業について、準備書の根拠となるデータに数百か所の数値の修正が必要となったことは、昨年7月に公開した準備書がいかに杜撰な作りであったかを示すものであると指摘しました。そして、改ざん事件以前にも、市民参加のプロセス終了後に審査会からの指摘を受けて膨大な補足説明資料が提出されたこと、さらに、準備書が今回のデータ修正でつぎはぎされたことに鑑みると、本件準備書は、もはや“準備書”の体を為しておらず、環境影響評価手続、特に、市民参加手続をやり直すべきである、と主張してきました。

 市長意見も、事業者の姿勢につき、「準備書等の修正の内容は、直ちに神戸市環境影響評価審査会委員の理解を得られるものでなかった」、「準備書に係る事業者の情報提供の姿勢には問題があると言わざるを得ない」、(たとえば、神戸製鋼が、大気汚染物質の排出が大幅に増えることを隠したままで市民参加手続が行われ、参加手続の後に、審査会に強いられて当該データを提出したことは、市長意見が指摘するように重大な問題です)と指摘するとともに、事業者は「信頼性の回復に努める必要がある」と述べています。

 それにもかかわらず、「環境影響評価の結果については不適切であるとは言えない」と結論づけ、手続のやり直しを求めないのは、市民参加手続の意義を無視するものであり、また、神戸製鋼の主張を代弁するようなものといわれても仕方がありません。

 

3. むすび

 市長意見書の作成等を規定した条例21条1項は、市長に対し「公述の内容に配意」することを求め、同3項は、「(審査会)答申を尊重して」意見書を作成することを求めています。しかし、審査会答申及び市長意見は、市民意見、公述意見書、審査会における「専門的議論」をほとんど反映しておらず、環境保全上の問題に関する定量的・個別的な指摘がほとんど見られません。また、市長意見は、神戸市主催の公聴会において39名の公述人全員が、環境保全の見地から本計画に反対した事実に配意しておらず、条例違反の誹りを免れません。

 市長意見の内容には、これまでの首長意見にないみるべき点も若干含まれています。しかし、全体としては、問題の指摘が極めて抽象的であり、この程度のレベルの記載なら、審査会の議論を経ずとも、また、(動物・植物の部分を除き)準備書を全く読まなくても書けるものです。そして、「2030年度以降に向けて、更なる二酸化炭素排出削減を実現する見通しを持って、計画的に本事業を実施する必要がある」、「…可能な限り低減させる必要がある」、「・・最善の事業計画となるよう引き続き検討を行うことが重要である」、「…することが望ましい」という表現に見られるように、行われるかどうか極めて疑わしい環境保全措置を、神戸製鋼に丸投げするに等しいものです。このように、市長意見書は、神戸市域の環境保全の主体としての行政責任を放棄して、ぜんそくなどの重大な健康被害や、温暖化による被害について、未来の子どもたちへ付け回しをしたものと言わざるを得ません。

 知事意見は、市長意見を勘案して環境保全上の意見を述べることが求められていますが、本計画は、敢えて最悪の立地、最悪の発電方法で行われるものである以上、地域住民の代表である知事として、本計画は「環境保全の観点から是認できない」という判断をすることを求めます。また、環境大臣においては、日本における環境行政の長として、地元市民の懸念を十分に受け止め、意見を表明することを強く願います。

 

以上。

 

神戸の石炭火力発電を考える会

住所:神戸市灘区山田町3-1-1(公財)神戸学生・青年センター内

TEL:080-2349-0490

Mail:kobesekitan@gmail.com

HP: https://kobesekitan.jimdo.com/

兵庫県知事・神戸市長意見への対応 施設の稼働に伴う二酸化炭素排出量を増加させない削減方策
兵庫県知事・神戸市長意見への対応 施設の稼働に伴う二酸化炭素排出量を増加させない削減方策
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【声明】神戸市長意見を受けて
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